工事費の高騰について、佐藤総合計画の細田雅春社長は「労務単価の上昇を懸念する声は多いが、いずれも表層的で本質的な議論ではない。根本にあるのは、人口減少の時代を迎えた日本全体の変化だ」と指摘する。経済のグローバル化により従来の資本主義の枠組みが成り立たなくなっている状況に加え、世界に例を見ない人口減少社会にあって「人口増加を前提とした建築生産からの脱却が重要だ」と、生産システムの変革を考えるべきと強調する。
一方で、現在の人口構成の変化は、従来型の「成長神話」とは異なる成長モデルを生むチャンスであるとも見ている。「人口減少によりまちが縮小すれば、市民がまちづくりにどう参加するかが重要になる。市民が主役であるという観点を失ってコストを重視する現在のまちづくりから、一人ひとりの主体性を生かしたまちづくりを考えることができるのではないか」と分析し、「工事費の高騰といった近視眼的な見方を脱し、新しい社会構造や産業構造、さらに重要なこととして生産システムのあり方を構想すべき」と喝破する。
人口構成の変化を契機に、小手先の方法論ではない根本的な思考改革が必要なものの一例に挙げるのが、東北で進む東日本大震災からの復興プロジェクトだ。「かつての街をそのまま再建するのではなく、人口が減少しているという状況に合わせた現実感のある計画が必要になる」とした上で「表層的なインパクトに惑わされるのでなく、自分の手で掴むことのできる人間の生活に根ざしたリアリティーを持ち続けないといけない」と語る。
この思考改革の前提となるのが「文化」への理解だという。「文化は従来の技術に加え、新たな技術開発の上に成り立つ。新しいアイデアもそうした文化の蓄積から生まれる。そしてそこに経済性も連動する」のだと。
国際化が急速に進展するからこそ「古いものを継承しながら新たなものを生み出す文化的背景がなければ世界に太刀打ちできない」と、よって立つベースとなる文化の重要性を強調。「人手不足だから『移民』を考えるという対症療法的思想ではなく、世界と対等に向き合い、グローバル社会に生きる意味をもう一度問い直すべきだ。現に企業や社会はグローバル人材を受け入れている」と説く。
こうした背景を踏まえ、設計事務所の役割を「単なる経済性の追求ではなく、社会の変革を受け入れつつ、これからの社会の姿を展望するテーマをつくり、それを現実社会に落とし込むこと」と見据え、「設計事務所は本来、構想し提案することを生業(なりわい)としてきた。建築や都市のあり方は時代によって変わる。成熟社会を迎えた日本の変化に対応するため、『新しい都市像に向き合う設計事務所』の姿を探求しなければならない」と力を込める。