三条市立大学
三条看護・医療・歯科衛生専門学校
設計コンセプトの実現を見る
Architects‘ writings: 04 三条市立大学、三条看護・医療・歯科衛生専門学校
設計コンセプトの実現を見る
三条市立大学と三条看護・医療福祉・歯科衛生専門学校は、若年層の流出による地元企業の高齢化や後継者不足、県央地域における慢性的な看護師不足に対応するため、市が新設する2つの教育機関からなるキャンパス計画です。400年以上の歴史をもつ「ものづくりの街」としての地域特性を活かし、地元企業との産学連携や異分野交流によりこれからの三条を担う若者を育む場にふさわしい「知の拠点」として2021年に開学しました。
三条市の地場産業を象徴する金属と木材による外観デザインと、「和釘」をモチーフにした大屋根によるシンボリックな外観により、地域に親しまれるキャンパスを目指しました。
私たち設計者が随所に織り込んだ建築的な工夫やしかけを実際に人が利用することにより、建物に息吹が与えられ、建築と運用プログラムの見事な融合により設計コンセプトが結実しました。その様子を実際の写真を通じてご紹介します。
交流からイノベーションが生まれるキャンパス:
アカデミックステップと呼ばれるキャンパス中央の大階段をはじめ、ラウンジやポケットスペース、また大学と専門学校で共有される食堂など様々な場所で、学生たちが自由に交流する様子が見られます。授業のほか、キャンパスに行くことでしか体験できないフェイストゥフェイスのリアルなコミュニケーションの時間を過ごす場をどのように作っていくかは、設計者として常に頭を悩ませるところです。今回もちょっとしたたまり場やこもって自習ができるポケットスペースなど多様な場を設計しましたが、それらがコロナ禍の中、感染防止に配慮しながら活発な交流の拠点となっていることを知って、気軽に集まれる「場」づくりの重要性を改めて確認できました。
多種多様な学習空間:
CAD実習室
アクティブラーニング教室
メカトロ実験室
ものづくりシアター
図書館
地域に開かれ、親しまれるキャンパス:
地域に密着した教育機関として、大学祭やサイエンスフェスタなど様々なイベントにより、地域の方々との積極的な交流が進められているのもこの学校の特色です。展示ギャラリーや食堂、ラウンジや情報スペースなどがストリート状に配置された1階を中心として、キャンパス全体に設けられた多種多様なスペースが有効に活用され、活気ある風景をつくりだしていました。
特に科学イベントやサイエンスフェスタでは、子どもたちを相手に職員、学生の皆さんも大奮闘、科学の楽しさを伝えるために実験や講義に様々な工夫を凝らしていました。
三燕祭(大学祭)
アカデミックゲート
ものづくりストリート
多目的広場
大講義室(共和松井ホール)での音楽コンサート
子ども向け科学イベント「Science & Technology program for Kids」
三条市立大学サイエンスフェスタ2021
地域のシンボルとして:
2022年10月1日には、新潟県燕三条地域の燕三条青年会議所の創立25周年記念事業として、大学の外壁を巨大スクリーンに見立てたプロジェクションマッピングのイベントが行われました。本格的なプロジェクションマッピングは県央地域では初めてということで、マルシェの出店もあって5万人を超える来場者でにぎわうなど、地域のシンボルとして認知されてきているようです。
産学連携:
120社を超える産学連携実習先企業や地元企業によるイノベーションを創出するビジネスリーダー養成講座や大学が持つ知的資源を発信し企業との連携を誘発する「知的ものづくりセミナー」の開講など、地場産業のハブとなるような大学の活動にも注目です。
開学からまだ2年ととても若い大学ですが、地域と大きく歩んでいけるよう、施設の設計者としても応援しています。
地元企業によるイノベーションを創出するビジネスリーダー養成講座
大学が持つ知的資源を発信、企業との連携を誘発する「知的ものづくりセミナー」
アハメド・シャハリアル学長からのコメント
三条市立大学は、大学での学術的な知識の学修と企業の現場で積む経験を結び付け、イノベーションを創出する知の拠点を目指しています。本学のコンセプトは、知識(Knowledge)と経験(Experience)の融合、自然科学(Natural Science)と社会科学(Social Science)の融合であり、また、次世代に導く教育と研究を通じて地域社会をより豊かなものにする壮大な計画に取り組んでいるところです。
本学校舎棟は、大学のコンセプトが目の前に見えるかのような形で表現されており、建築そのものが人に与える価値を実感できます。ガラス張りの教室や、教員オフィス、その配置、まっすぐに伸びるアカデミックステップ、桜の木の床板、楽器の名前のついたPOCKET SPACE、どれ一つとっても胸がスーッと開くような感覚を覚えるつくりで、この建築のなかで学ぶ時間の充実さぶりを体感できます。視覚から得られる情報が学びをデザインするのだと誰もが感じることができ、本学ならではの経験的な学修と知識の学修が融合した学びを通じてOne and Only(有一無二)の人材がここから生まれ、地域で好循環を生み出すことができる確信することができます。
執筆者
建築概要
名称
三条市立大学、三条看護・医療・歯科衛生専門学校
建築主
三条市
設計・監理
佐藤総合計画
所在地
新潟県三条市上須頃字大屋敷1422番地他
構造・規模
鉄骨造 地上4階(大学)、地上二階(専門学校)、地上2階(体育館)
延床面積
15,254.49㎡(大学)、4,961.18㎡(専門学校)、1,188.85㎡(体育館)
竣工年月
2021年1月