社会はなぜ『現代建築』を受け入れるのか」
細田雅春著 日刊建設通信新聞社刊、2021年
ISBN978-4-902611-85-4 四六判
356ページ 本体2700円+税
デジタル技術、グローバル社会の進展であらゆる情報が瞬時に世界を駆け巡る。さまざまな価値観が時空を越えて同時に共有できる社会となり、多様性はますます重要度を増している。
「現代社会はグローバル化し、デジタルという空間の中で生きるという現実を突きつけられている。建築界でも従来にも増して多様性が大きなキーワードになっている。極端に言うと何でもありが許容される社会で、まったく反対の意見、少数派も許容しながら成り立つ社会になっている。本書には多様性や社会が抱える矛盾、不条理を頭に入れながら建築のあり様を見つめ直すことが重要だというメッセージを込めている」
多様性を認めることは簡単で難しい。建築界に突き付けられているのは、さまざまな事象を理解した上で、客観的な根拠に基づいて多様な価値観を許容する世界を見出す努力だと強調する。
「複雑な社会に生きているという現実をとらえなければリアルな世界を見ることはできない。科学や現実社会に内包されている多面的な課題を解きほぐしていくためには、人間に蓄積された感性がより重要になる。下地として、数値的な客観性は避けて通れないが、文学・芸術的要素、矛盾、不条理を重ね合わせて、人間の全神経、全体質でとらえて感覚として昇華できた時に初めて問題に対する真実に多少触れることができるようになっていく。建築には多くの科学的要素も必要だが、科学だけで建築を捉えることはできない、さまざまな事象を止揚し、感性で問題をとらえていくことが切り札になる」。
社会構造が複雑化し、建築に求められる役割が増大する中、建築に携わる者はいかにして感性を磨いていくべきなのか。現実をとらえる能力はデジタルだけでは身に付けられないと指摘する。
「例えば、中国で交通事故が起こればすぐに情報が入ってくるが、抽象な情報が届くだけでリアリティーはない。生身のリアリティーを持たないと建築はだめになる。建築は身体性と直接的につながっている。教育現場でも、ものづくりの意味を理解しないで、一気にデジタルの世界で情報処理だけをやっていては、真の建築からほど遠いものになる」。
建築の守備範囲は深く広い。さまざまな問題に建築界はどう対処していくべきなのかという問いかけに対しては、「多様性を容認する根源としての民主主義は結論を出せないという矛盾を抱えている。結論を求めたらそこで停止する。常に未来に向かって課題が積みあがっていくことを前提とした思考にこそ意義がある」と語る。終わりのない結論と戦いながら常に問題を提起しながら思考し続けることが、建築の力であり、建築界が果たすべき役割でもある。